「起業して、最初に目指すゴールはどこでしょうか?」

10月23日の夜、画面の向こうの採択者に、講座の最初にこう聞きました。

売上。法人化。資金調達。思い浮かぶものは、たぶん人によって違います。そして、どれも間違いではありません。ただ、起業したばかりの人に、ひとつだけ指針を渡すとしたら、答えは決まっています。

PMF(プロダクトマーケットフィット)です。

この日は、TAKEOFFの採択者6名がそろって顔を合わせる最初の日でした。前半は互いの事業を紹介し合い、後半で「起業基礎講座」の第1回を開きました。

講師は、TAKEOFFの運営責任者で、採択者のメンターも務める石川真之(株式会社アルファドライブ)です。AlphaDriveの豊田支店長として、豊田市を中心に、全国で地域企業や起業家の育成を担っています。

TAKEOFF 起業基礎講座 第1回 実施概要

日時
2026年10月23日(金)19:00〜21:00
形式
オンライン(Zoom)
参加者
TAKEOFF 2026 採択者
講師
石川 真之(株式会社アルファドライブ AlphaDrive東海 地域共創統括責任者 兼 豊田支店長/TAKEOFF 運営責任者)
内容
採択者の顔合わせ/起業基礎講座「PMFを目指して、顧客と課題の解像度を上げる」
主催・運営
主催:豊田市/運営:株式会社アルファドライブ

起業の形は、ひとつじゃない

顔合わせで、あらためて思いました。今年の採択者は、本当にばらばらです。

大学生もいれば、会社に勤めながら起業を目指している人も、すでに自分の会社を経営している人もいる。夏のTAKEOFF Campで生まれたチームが、そのまま事業に挑んでいる例もあります。取り組む領域も、事業の段階も違う。

一言で「起業」といっても、形はいろいろです。スタートアップのように大きく伸ばしていく形もあれば、自分の思いを形にするために、まず目の前の一人のお客さんから始める形もある。

それでも、どんな形の起業であっても、これだけは知っておいてほしいということがあります。この講座は、それを伝えるために用意しました。

2月20日のDemoDayでは、6名はいったん競い合う相手になります。でも同じ時期に、同じ豊田で、本気で事業に取り組む仲間でもある。どんなことに悩んでいるのかも含めて、互いに知ってもらえたらと思っています。

最初のゴールは「PMF」

PMFとは、ひとことで言えば、とにかく求められてしょうがない状態です。

欲しい、ぜひやってほしい、と言われる。なのに、人もリソースも足りなくて提供しきれない。人さえ投入すれば売れる。そういう状態です。

PMFの前は、重い岩を坂の上へ押し上げるような足取りです。本当にたどり着けるのかと、不安を抱えながら進む。PMFの後は反対に、転がり出した岩を必死に追いかけることになります。人を雇い、組織を整え、お金を集める。

ただ、PMFにはいきなりたどり着けません。道のりは4つの段階でできています。

  • CPF:その顧客が、必死になっている課題はあるか
  • PSF:その課題は、何かの解決策で解決できるか
  • SPF:その解決策は、製品・サービスにして届けられるか
  • PMF:その製品は、市場から強く求められているか

お客さんを見つけて、課題の解き方を考えて、作って、売ってみる。起業というと複雑で難しいものに聞こえますが、世界的に成功率が高いとされている方法は、実はこれだけシンプルです。そして、一直線ではなく、行ったり来たりしながら進みます。

最初にやることは、2つだけ

では、最初に何をやればいいのか。答えはシンプルに2つです。

  1. 顧客と課題の解像度を上げ、バーニングニーズを探す
  2. その課題を解決するソリューションを考える

バーニングニーズとは、火を吹くように欲しいニーズのことです。お金を払ってでも、何としてでも解決したい。「あったら便利」とは違います。

イノベーター理論の普及曲線。左からイノベーター2.5%、アーリーアダプター13.5%、アーリーマジョリティ34%、レイトマジョリティ34%、ラガード16%。アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にキャズムの裂け目がある
講座で使ったイノベーター理論の図。最初に探すのは、左端の「何としてでも欲しい」人たちです。

新しいものは、最初は2.5%のイノベーターにしか必要とされません。そこから少しずつ広がっていく。だから起業で探すべきなのは、イノベーターやアーリーアダプターが持っている「何としてでも欲しい」です。そういう人がどこにもいない事業は、もしかしたら誰にも必要とされないかもしれません。

そして、この2つは別々の作業ではありません。課題がわかるほど解き方が見えてきて、解いてみるほど課題がわかってくる。

顧客課題の解像度が上がらなければ、ソリューションの質も上がらない。

解像度は、4つの問いで確かめる

では、解像度が上がった状態とはどんな状態か。講座では、4つのチェックポイントを示しました。

  1. 事業のポイントを、簡潔に話せるか
  2. 顧客がなぜ課題を抱えているのか、顧客よりも詳しく説明できるか
  3. なぜお金を払ってくれるのか、リアリティが持てるほど説明できるか
  4. その話をしたときに、「すごい」「面白い」と反応されるか

4つ目の例として紹介したのが、ネット印刷のラクスルです。

「ネットで印刷を安く頼めるサービスです」と言えば、それで話は終わります。ところが創業者は、全国の印刷会社の印刷機が、実は動いていない時間がとても長いことに気づいた。それなら、空いている印刷機を束ねて注文を流せばいい。自分で工場を持たなくても、安く印刷できる。

こう聞くと、「面白い」と思いませんか。事業になる顧客課題には、驚きや面白さがあります。 話したときの反応が薄ければ、まだ解像度が足りないという合図です。

講座の途中で5分とって、全員に自分の事業を1つの文章に当てはめてもらいました。「〈状況〉という状況で、〈課題〉を持つ〈対象顧客〉向けの……」という、価値提案の型です。すらすら埋まった人もいれば、手が止まった人もいたと思います。手が止まったところが、次に解像度を上げるところです。

お客さんは、嘘をつく

解像度を上げるためにやることも、3つにまとめました。徹底的にリサーチすること。仮説を作って確かめること。定期的に整理すること。

リサーチで目指すのは、自分が対象とする領域について、周りの誰よりも詳しい状態です。AIに聞く、本を読む、競合のサービスを使ってみる、関係する人に話を聞く。知らない業界なら、スキマバイトで実際に働いてみるのもおすすめしました。働くことでしか見えない世界があります。

ただ、調べるだけで上げられる解像度には限界があります。そこで仮説を作って、確かめに行く。このとき、どうしても知っておいてほしい不都合な事実を伝えました。

お客さんは、嘘をつきます。

悪い人が多いという話ではありません。むしろ逆で、頑張っている人に「いらない」と言うのは悪いと思うから、「いいですね」と言ってくれる。でも、その裏に「私は買わないけどね」が隠れていることがある。

だから、未来の意見を聞いてはいけません。課題を確かめたいなら、過去の行動を聞く。その課題に、時間やお金をかけているか。誰かに相談しているか。本当に困っている人は、すでに何かしら動いています。解決策を確かめたいなら、プロトタイプを持っていって、実際に行動が起きるかを見る。使ってくれるか、買ってくれるか、誰かに広めてくれるか。

積み上げだけでは、真似される

ソリューションの考え方には、2つのアプローチがあります。

ひとつは積み上げ型。お客さんはこんな課題を抱えている、だからこうすれば解決できるはずだ、と論理を積み上げていく方法です。もうひとつはアート思考。自由な発想と想像力で、思いもよらなかった解決策をひねり出す方法です。

整然と積み上がった灰色の木のブロックの頂上が割れ、緑や黄色、マゼンタの絵の具が勢いよく噴き上がっている
突飛な発想も、積み上げた解像度の上から生まれます。

真面目に仮説検証を繰り返していると、突飛な発想はだんだん出てこなくなります。でも起業では、簡単に真似される解決策は続きません。だから、創造力を大切にする、忘れない。アート思考も、発想のもとは解像度です。

そして、創造力は鍛えられます。自分自身、高校のころから想像力の豊かな友人に憧れて、ずっと鍛えてきました。講座では、すぐ試せるトレーニングを4つ紹介しました。目に入った2つのものを組み合わせたら何ができるかを考える。身近なサービスが、誰のどんな課題を解決しているのかを考える。悩んだら「こうだったらどうだろう?」と問いを置いてみる。そして、ときどきノートを開いて、手で書いてみる。

作れるなら、先に売ってみる

最後に、AI時代の話をしました。

2026年、生成AIによって、日本語でコードが書けるようになりました。プログラミングの経験がなくても、ソフトウェアならほとんど何でも作れます。

これまでの定石は、なるべく作らずに、安く速く確かめることでした。でも作れるなら、完成品を作って、先に売ってみるという道があります。完成したものを売ってみて得られるものは、100回のヒアリングより多いこともある。もちろん、ハードウェアのようにAIではまだ作れない領域もあるので、使い分けは必要です。

基本はお客さんと課題に向き合い続けること。そのうえで、PMFに近づく近道が増えた。そういう時代だということを、知っておいてほしいと伝えました。

「AIは、どこまで使っていいんでしょうか」

講座の後、採択者のひとりから、講師の石川にこんな質問がありました。

事業の壁打ちに生成AIをフル活用していて、すぐにきれいな文章にしてくれる。でも、だんだん自分ではなくAIが考えているんじゃないかと思えて、自信をなくすことがある。線引きはしたほうがいいのか。

とてもいい質問でした。

AIは整理が得意です。そして、きれいにしようとして削ぎ落とします。そのときに、自分が本当に大切にしている思いまで削ぎ落とされていないか。それは、必ず自分の目で確かめなければいけません。

AIが出したものへの責任は、自分が負う。

フル活用していい。ただし、自分の色は持ち続ける。おかしな答えが返ってきたら、ダメだと言い続けて、AIをしつけていく。そうしないと、自分の事業にならないからです。

次は11月

起業基礎講座の第2回は、11月に開きます。ここから2月20日のDemoDayまで、メンターと一緒に、お客さんの解像度と解決策に頭を悩ませる日々が続きます。

岩を押し上げる日々は、ここからが本番です。6名がどこまで進んだか、またこの場所で報告します。

よくある質問

TAKEOFFの起業基礎講座の講師は誰ですか?

2026年10月23日の第1回は、TAKEOFFの運営責任者で、採択者のメンターも務める石川真之(株式会社アルファドライブ AlphaDrive東海 地域共創統括責任者 兼 豊田支店長)が講師を務めました。AlphaDriveの豊田支店長として、豊田市を中心に、全国で地域企業や起業家の育成を担っています。

起業基礎講座の第1回では、何を扱いましたか?

起業して最初に目指すゴールとしての「PMF(プロダクトマーケットフィット)」と、そこへ近づくために顧客と課題の解像度を上げる方法を扱いました。解像度を確かめる4つのチェックポイント、リサーチと仮説検証の進め方、ソリューションを考える2つのアプローチ(積み上げ型とアート思考)、生成AIで完成品が作れるようになった時代の選択肢までを、約80分で話しています。

起業基礎講座には誰が参加できますか?

TAKEOFF 2026の採択者向けの講座です。一般公開はしていません。