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Interview

「豊田の可能性をひらく」――辻 竜也さんの挑戦

トヨタ自動車で約20年。独立しL-Partnersを創業した辻竜也さん(2025年度TAKEOFF最優秀賞)が、不安だらけの独立直後から、事業計画として言語化されていくまでを語る起業ストーリー。

2026.06.21主催:豊田市運営:株式会社アルファドライブ

辻 竜也さん

福岡県出身。15歳で地元を離れ、その後トヨタ自動車で約20年勤務。会社員時代から地域プロジェクトや里山活動に取り組み、昨年10月にL-Partnersを創業。現在は、地域資源を活かした商品開発と、地域企業への伴走支援に取り組む。

足助の漆復活プロジェクト(Instagram)→

「15歳で地元を出た」――知らない世界に飛び込むたび、道はひらけた

石川

まずは自己紹介と、今取り組んでいる事業について教えてください。

辻さん

福岡出身で、15歳で地元を出ました。その後、トヨタ自動車に約20年勤めてきました。会社員をしながら、地域プロジェクトで空飛ぶ車をつくったり、里山の活動団体を立ち上げたりもしてきたんです。そこから、もっと地域の事業を本格的にやっていきたいと思って、昨年10月にL-Partnersを起業しました。今は、地域資源を使った商品開発と、地域企業のお手伝いをする伴走支援の2つに取り組んでいます。

石川

トヨタ自動車で長く働かれてきた中で、起業という選択肢が本気で芽生えたのは、どんなタイミングだったのでしょうか。

辻さん

地域活動自体は10年くらいやってきました。仕事以外でも、社内のアイデアコンテストやビジネスコンテストに関わる中で、いろいろな刺激を受けたり、人とのつながりができたりして、少しずつ「起業したい」という思いが形になっていった感じですね。30代半ばくらいには、いつか起業したいという目標がありました。昨年36歳になって、会社でも責任が重くなってきた時に、改めて「自分の人生をどうしたいんだろう」と深く考えるようになりました。そこが一番大きかったです。

石川

かなり大きな決断だったと思います。そう簡単に踏み出せるものではないですし、迷いもあったのではないでしょうか。

辻さん

もちろん簡単ではなかったですが、振り返ると、自分はずっと「飛び出すことで世界がひらける」経験をしてきたんですよ。15歳で福岡を出た時もそうでしたし、その後もボランティアやプロボノで地域に関わる中で、わからない場所に飛び込むと道が見える感覚があった。だから今回も、新しいところに手を広げていくチャレンジだったのかなと思います。

「売上の見込みは、全くなかった」――不安だらけの独立直後

石川

独立の決断は本当に大きいですよね。しかも、当時はまだ事業が完全に形になっていたわけではなかったと思います。その時点で、売上の見込みはあったのでしょうか。

辻さん

いえ、全くなかったですね。あったのは地域とのつながりと、「地域でこういうことをやったら可能性があるだろうな」という感覚くらいでした。

石川

売上ゼロでそこに踏み出すのは、やっぱりすごい決断だと思います。独立直後は、どんな気持ちだったのでしょう。

辻さん

不安だらけでしたね。個人事業として、地域で細々と自分の役割を探していくのかな、という不安がありました。退職前の有給消化の2カ月は、起業のきっかけやつながりをつくる時間に充てられて、それはすごく良かったんです。でも、可能性は見えても、それをどうお金にするのか、どう仕事にするのかが見えなかった。最初は、1〜2年かけていろいろな人と話しながら、何をしていくか模索しようと思っていました。

石川

その状態で一人で考え続けるのは、かなり苦しかったのではないかと思います。そんな中で、プログラムに参加しようと思った理由は何だったのでしょうか。

辻さん

自分の中だけで考えていても、なかなか良い形にはならないだろうと思ったんです。やり始めるとどんどんのめり込んでしまうタイプでもあるので、外から壁打ちしてもらえる環境が必要だと感じて、参加しました。

石川

独立後、一番しんどかったことは何でしたか。

辻さん

「苦しい」と言い切れるものではないんですが、体調面には出ましたね。気づかないうちに自律神経や生活リズムが乱れて、環境の変化による不安を抱えていたんだと思います。辞めてすぐの夏から冬にかけては、そういう時期がありました。最近ようやく落ち着いてきました。

孤立からの脱却。TAKEOFFの「プロの壁打ち」が不安を自信に変えた

石川

TAKEOFFに参加されてから、辻さんの言葉や視点が明らかに変わっていった印象があります。振り返って、一番大きかった支援は何だったと思いますか。

辻さん

一番大きかったのはメンタリングです。事業経験があって、しっかり法人として会社をやられている方で、さらに地域活動のことも知っている方だったので、かなり相談しやすかったですね。単にアイデアを聞いてもらうだけではなくて、「個人事業としてどう頑張るか」ではなく、「事業としてどう形にするか」を一緒に考えてもらえた。そこが本当に大きかったです。

石川

事業経験のあるプロに壁打ちできると、見える景色が変わりますよね。特に、価格設定や今後の体制づくりのような、リアルで答えを出しにくいテーマも多かったと思います。

辻さん

そうなんです。価格設定のような細かくて現実的なところも相談できましたし、「今の自分がどこまでやれるのか」「この先どう広げていくのか」を、かなり具体的に考えられるようになりました。参加前は、1人でどこまでできるか、その範囲しか想像できていなかったんです。でもメンタリングを通じて、「どんな視点で現場を見て、何を調べて、どう考えるか」を学べました。自分1人の影響力は小さくても、人や組織を巻き込んでいけば、ここまで広げられるという具体的な広げ方が見えてきたんです。

石川

不安が消えた、というより、「判断できる材料」が増えた感覚に近かったのかもしれませんね。

辻さん

まさにそうですね。感覚だけで動いていたものが、少しずつ事業計画として言語化されて、数値も含めてリアルに想像できるようになりました。「この規模で本当にやれるのか」「1年後の自分ならできるのか」と考えられるようになったのは大きいです。自分の中だけでは見えていなかったことを、プロの視点で整理してもらえたことで、不安が少しずつ自信に変わっていった感じがあります。

感覚だけで動いていたものが、少しずつ事業計画として言語化されて、不安が、少しずつ自信に変わっていきました。

石川

最終ピッチでは「豊田の可能性をひらく」というビジョンを、ご自身の言葉で語られていたのがとても印象的でした。プログラム前と比べて、やりたいことが明確化された感覚はありますか。

辻さん

はい、今なら自信を持って言えます。昨年5月くらいに上司へ「起業します」と話した時は、正直、うまく説明できなかったんです。「地域に貢献できる事業をやりたい」とは言っていたけれど、具体的なイメージがなくて、自分でもそこまで自信がなかった。でも今は、「どうしてもこういう人生を歩みたい」ということを、ちゃんと説明できます。それがすごく大きいですね。

迷いを越え、実行へ。法人化とクラウドファンディングへの挑戦

石川

そして、その延長線上に法人化という大きな意思決定も見えてきたんですよね。

辻さん

はい。これからなのですが、法人化をしようと決めています。法人化するとコストがかかって、一時的にはマイナスになる現実もあります。でも、社会的な信頼を先に得る必要がある。そこにコストをかけて先行投資する判断を、今年中にしようと思っています。以前の自分なら、「法人化した方がいいですかね」といろいろな人に聞いて回っていたと思うんです。でも、TAKEOFFで事業計画を具体化してきたからこそ、このタイミングで決断するほうが事業として良いと、自分で判断できるようになりました。

石川

その判断ができるようになったのは大きいですね。もう一つ、足助での漆復活プロジェクトも、まさに今の挑戦の象徴だと感じます。クラウドファンディングの準備を進めているかと思うのですが、プロジェクトを立ち上げたきっかけをお伺いできますか。

辻さん

はい、足助地区で、昔の漆を復活させるプロジェクトに取り組んでいます。きっかけは、退職前の有給消化中に参加した地域の集まりでした。地域に根ざした起業をしたいと話したら、「足助の漆を復活させるのは面白そうだね、一緒にやらないか」と声をかけていただいたんです。そこから歴史を調べたり、視察に行ったり、いろいろな人に発信したりしていたら、思っていた以上に大きく形になってきました。地元の方々の協力があってこそ成り立つ取り組みなので、外から入ってきた自分と、地域に根差した方々の思いが掛け合わさっている感覚があります。

石川

地域の思いやストーリー性のあるプロジェクトはクラウドファンディングに適していますよね。今回のTAKEOFFでは、クラウドファンディングの立ち上げもサポートさせていただきましたが、役に立ちましたか。

辻さん

はい、かなり大きかったです。プロジェクトのサポートメニューに組み込まれていたので、「まずは相談してみよう」とすぐに行動できました。もしそれがなかったら、自分でサイトを見たり、過去事例を調べたり、つながりのないところに一から問い合わせたりしないといけなかったと思います。その手間や心理的なハードルが下がったのは大きかったですね。ゼロから全部調べていたら、動き出しがもっと遅くなっていたはずです。そういう意味で、挑戦の最初の一歩をかなり後押ししてもらいました。

「地域の資源」と「実行する人」をつなぎ、豊田の未来をひらく

石川

今、豊田という地域で事業をする面白さはどこにあると感じますか。

辻さん

やりやすい土壌は整っていると思います。街としての規模もありますし、製造業が強いという特徴もある。だからこそ、まだ開ける可能性があるんですよね。里山地域にも文化や伝統がありますし、「この街の未来のためにやっていこう」という土壌もある。挑戦する環境はすごくあると感じています。

石川

辻さんが今後、特に向き合っていきたいテーマは何でしょう。

辻さん

地域には資源があるのに、それが十分に届けられていない。そして、それを実行するプレイヤーが足りていない。この2つが大きな課題だと思っています。一方で、製造業の街だからこそ、ベースの能力が高い方はたくさんいるんです。そういう方々が地域の事業や企業の取り組みに出てくると、地域はもっと変わっていくと思う。だからこそ、優秀な人たちをうまく巻き込みながら、地域のためにも、地域企業や製造業にも還ってくる循環をつくりたいですね。まさに「豊田の可能性をひらく」ことだと思っています。

石川

ここまでのお話を伺うと、辻さんの挑戦は個人の起業にとどまらず、地域全体の可能性に向かっていると感じます。最後に、これから挑戦したい人へメッセージをお願いします。

辻さん

知らない世界に飛び込んだ時って、思いもよらない方向に道がひらけたり、自分が成長できたりするんですよね。やってみてダメだったとしても、それは経験になる。だから、迷っているなら一回やってみるのがすごくいいと思います。豊田・三河地域には、地域で事業をしていく可能性がまだまだたくさんあります。会社を辞めなくても、副業的に関われる余地も大きい。挑戦したい方とは、ぜひこの地域で一緒に何かできたらうれしいです。

編集後記

「地域で仕事や雇用を創り、新しい時代を切り拓く」——今回のTAKEOFFを通じて、辻さんのような起業スタイルへの可能性を強く感じました。近年スタートアップ型の起業に対する注目度が高いですが、辻さんのように、個人として地域へ思いを持ち、困難な地域課題と向き合うことで、新しい事業を発明し、持続可能なビジネスモデルを創り上げる。そんな起業の姿も、素晴らしいと思います。「個人の多様な思いを、その人にあった形で実現する」——これからも地域への強い思いを持つ一人として、強い決意で起業する皆さんと向き合っていけたらと思います。

豊田で、"やりたい"を事業にする。

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